「実はボク、ゲイなんです」
ある日とつぜん現場の社員からカミングアウトされたとき、人事のあなたはどうしますか?
「え?コッチの人だったんですか?」と言って茶化しますか?
「そうだったんですね、ハハ…」と笑って、受け流しますか?
現場であればともかく、人事・労務関連のお仕事をされている方であればこのような受け答えをする方はまずいらっしゃらないと思いますが…。
しかし事実、
「ウチの職場でLGBTと会うことなんてほぼ無いだろう」
そんなふうに考える方も多数いるのではないかと思います。
既に10年ほど前から「ダイバーシティ」という言葉は企業課題の一つとして取り組まれていますが、現時点でのダイバーシティは「女性」「シニア」「障がい者」。
この3つの層に対して取り組んでいる企業がほとんどで、「LGBT」についての対策はほぼ皆無…という企業も少なくないと思います。
本日この記事を読んで頂き、そこにさらに「LGBT」という層を含めていただくきっかけになれば幸いです。
では企業として、どのような対策を講じていけばよいのか。
それを説明する前に、まずはLGBTについての基礎知識を学んでいきましょう。
目次
近年ニュースでよく見かける「LGBT」とは?
日本人口でみるLGBT
近年、新聞やニュースでよく目にする「LGBT」。
いま、日本を支えるあらゆる大企業がこの「LGBT」という言葉に注目し、企業という枠を飛び越え、社内で幅広い活動を行っています。
ここに、興味深いデータがあります。
2015年4月。
株式会社電通のダイバーシティ課題対応専門組織「電通ダイバーシティ・ラボ」が、全国の約7万人を対象に、LGBTに関するアンケート調査を行いました。
調査の結果、全体の「7,6%」の人が、LGBTに該当したとのことです。
皆さんはこの、「7,6%」という数字。どのように感じられるでしょうか。
「やっぱり全体でみれば、少数なんだな」ととらえる方もいれば、
「100人に7-8人いるということか。意外に多いな」と感じる方もいるかもしれません。
私がこのデータに触れて思ったのは、断然後者の方です。
もし100人の会社であれば、1部署に1人。1つ教室があれば、2~3人はいる計算です。
また少し古いデータですが、2012年の推計によると、全米で最もLGBTが多いとされるサンフランシスコでは、全人口の15.4%が、LGBT当事者であるという調査結果が出ています。(カリフォルニア大学ロサンゼルス校2011年のデータ)
LGBTという概念自体、私自身の生活から縁遠いところにあると思っていましたが、意外と身近なものであると気づかされました。
就業者人口でみるLGBT
では次に、日本の就業者人口でみてみましょう。
総務省の統計データ(労働力調査基本集計 平成28年2016年6月分)によると、現在日本の就業者数は6497万人。
これに先ほどの「7.6%」という数字をあてはめてみます。
すると、日本の就業者6497万人のうち490万人以上が、LGBT当事者に該当すると予想できます。
490万人というと想像しづらいかもしれませんが、都道府県で言えば、福岡県の人口に近い数字です。(福岡県は人口約510万人。日本で9番目に人口が多い都道府県)。
この数字を見ても、「私の会社に、LGBTに該当する人はいないだろう」と言えるでしょうか。
市場規模でみるLGBT
余談ですが、今度はLGBTを「市場」と捉え、ビジネスの観点でみてみましょう。
おなじみの電通ダイバーシティ・ラボの2015年4月の調査によると、LGBT層の消費・サービス市場は5,94兆円と言われています。
IT業界、コンビニ業界の市場規模が約6兆円なので、それに該当すると考えると、想像以上に大きな市場であることが伺えます。
近年LGBT市場は増加傾向にあるといわれていますが、その理由としては、LGBTにかかわる社会情勢の変化が挙げられます。
海外では同性婚を認める国も増え、日本でも2015年春、渋谷区でパートナーシップ条例が施行されるなど、LGBTをとりまく環境が変わりつつあることが大きな要因でしょう。
これを機にLGBT当事者をターゲットとする商品開発、販売、広告宣伝などの企業活動も増えていくことが予想されます。
どのようなことがLGBT当事者にとって「差別」にあたるのか
今でこそTVをつければ「オネエタレント」と呼ばれる方が多く活躍しています。
経営者ではアップルのCEOであるティム・クック氏が、オリンピックの世界では水泳のイアン・ソープ選手が、自身がゲイであることをカミングアウトしています。
近年、TVや有名人でこそ、LGBTへのイメージが変わりつつあるように見えますが、身の回りにおいての職場・私生活においては、まだまだ実感がない方が多いように見受けられます。
そのような中で、まず個人が注意していきたいのが、「差別的言動」についてです。
私たちが普段使う言葉や軽い冗談には、もしかしたらLGBT当事者を傷つけてしまうような言動が含まれているかもしれません。
それが「キモい」「ウザい」などの明らかな悪口であるのならわかりやすいのですが、ほとんどの場合、ストレートの方がなんの自覚もないまま発する言動が多いことも事実です。
では、どのような言動が、LGBTにとって「差別」と感じられてしまうのでしょうか。
その代表例を一部紹介します。
【Lに対して】
「レズなの?」
「オナベなの?」
「男が恐いだけでしょ?」
「子供できないの?」
【Gに対して】
「ホモなの?」
「俺を襲うなよ(笑)」
「ゲイとか恐い」
【Bに対して】
「変わった性癖だね」
「エイズとか大丈夫なの?」
【Tに対して】
「オカマってこと?」
「オネエなの?」
「なんでスカートはかないの?」
「身体は男なんだから、男らしくしろ」
よくあるのが、「オナベ」「オカマ」「ホモ」「レズ」という単語を差別用語だと知らずに使ってしまう例です。
少し覚えにくいですが、オナベはFtM(Female to Male)、ニューハーフはMtF(Male to Female)。
ホモは「ゲイ」。レズは「レズビアン」と改めることが無難でしょう。
トランスジェンダー(FtMやMtF)に対しては、男性には男性らしさを、女性には女性らしさを求めるようなセリフが多いのです。
以前よりはある程度改善されてきてはいますが、まだまだ改善の余地があるのが現状です。
またLGBTを、「性癖」と捉えるのも、間違った見方です。
このような「差別的言動」が社内で知らず知らずのうちに度重なれば、LGBT当事者がカミングアウトをしている、していないにかかわらず精神的に不安定な状態になってしまったり、最悪の場合は離職に至ってしまったりするケースも考えられます。
昨今の人材不足である企業の状況を考えれば、不要な人材の流出は避けたいところ。
ましてや社外にネガティブな印象を与えてしまっては、人材確保に不利な状況を作ってしまいかねません。
なるべく早い段階での、LGBT施策を講じることをおすすめします。
人事がやるべきこと
さて、現在のLGBTを取り巻く環境については、おおよそ理解いただけたかと思います。LGBTに関する知識は当事者のみではなく、ストレート(異性愛者、LGBTに該当しない人)にも必要なものです。
上記のような差別を社内からなくしていくために、人事・労務・総務の方々にはしっかりとLGBT対策を講じていただきたいのです。
では企業の人事は、どんなことから始めていけばよいのでしょうか。
人事が行うべきLGBT対策について、下記の3つについて検討してください。
①ダイバーシティ推進部の立ち上げ
②社内ルールの整備
③学習機会・ネットワークの増強
①ダイバーシティ推進部の立ち上げ
まずLGBT施策を執り行うために必要になるのは、「リーダーシップをとる部署、あるいはチーム」を立ち上げることです。
どんなプロジェクトもそうですが、まずは誰が施策において統率を図るのか、または誰に責任があるのかを決めなければなりません。
ここでは例として「ダイバーシティ推進部」としましたが、部署名はもちろん何でも結構ですし、人事がそのまま兼任しても問題ありません。
ただLGBT対策を推進しようとしている企業においては、すでに女性活躍推進のために、既にダイバーシティ推進部を立ち上げている企業も多いと思うので、そこと兼務させるのも良いでしょう。
また部署やチームを設けられないような中小企業においては人事部。
さらに小さな企業では、総務部が兼任するのが無難です。
何はともあれ、社内の人間とのコミュニケーションが増える仕事です。身内にも遠慮せず、言うべきことははっきり言える姿勢を貫ける人が良いでしょう。
②社内ルールの整備
部署立ち上げの次は、いよいよ仕組みを導入していきます。
仕組みについては、「相談窓口」「社内規定」「福利厚生」の3つの仕組みを整備することが大切です。
・相談窓口
メンタルヘルス対策として産業医やカウンセラーを設置する企業は多いと思いますが、それと同様に、LGBT当事者に何か問題があった際、社内で気軽に相談できる相手が必要になります。
LGBT施策が遅れている企業にはこれだけでは施策としては不十分ですが、まずはこれでLGBT当事者の安全や離職を守ることができます。
もちろんストレートの方がLGBT当事者との接し方に悩んでいる際、アドバイスできる存在としても役に立ちます。
・社内規定
大規模な改善は必須ではありませんが、現存する社内規定や人事制度にLGBTについての内容を盛り込む必要があります。
今でこそ男性・女性への差別、セクハラなどの内容を入れている企業は多いでしょうが、LGBTに対しての差別・偏見防止を取り入れている企業はまだそう多くないはず。
明文化し、社員に周知できるような環境をつくりましょう。
・福利厚生
福利厚生において、家族手当や結婚祝い金などを取り入れている企業は多いでしょう。
しかし結婚といえば、異性愛者同士が原則。同性愛者のカップルには、家族手当や結婚祝い金は無縁である企業が多いのが現状です。
確かに現在の日本では同性パートナーは認められていないため、同性の場合はカップルと結婚の境が難しいところではありますが、福利厚生は法律で定められておるものではないため、各企業においての自由度は高いはず。
やはり社員全員が平等に与えられるのが福利厚生ですので、同性愛者も異性愛者も分け隔てなく、対応することが重要です。
細かい仕組みは各企業で必要に応じて導入するとして、まずはこれら3つの仕組みを整えると良いでしょう。
しかしやはり一番大切なのは、「差別をなくしたい」という気持ちを込めて構築すること。
このメッセージが文面から感じ取れるか取れないかで、LGBT当事者の安心度が変わってきます。
他社のすぐれた制度を模倣するのにこだわるのではなく、しっかりと自社の社員をイメージしながら構築していくことが大切です。
③学習機会・ネットワークの増強
仕組みが整ってきたところで、次に行うのは社内周知です。
構築した制度を運用することはもちろんですが、それ以上に、社員にさらにLGBTについて知っていただく必要があります。
・学習機会の増加
日本でも研修やセミナーなどの機会を設け、社内へのLGBTについての啓蒙活動を行っている企業が多く存在します。
しかし、いきなり単体でLGBTの研修を行っても、多くの社員は戸惑ってしまうのが現状です。
まずは社員にLGBTのことをどれだけ知っているか、どんな問題が社内にあるのかを、アンケートを通じて調査するのが良いでしょう。
現状の課題がおおよそながらも見えてきますし、もしかしたら、すでに悩んでいる社員が相談に訪れるかもしれません。
そしてなにより、会社側が「これからわが社は、LGBT施策を講じていきます」という強いメッセージにもなります。
アンケートを回収したら、それをもとに研修プログラムを組むとさらに効果的です。
まずは管理職研修、階層別研修の一部を、LGBTの研修の時間に充ててみましょう。
社内の人間での講義が難しい場合は、外部の組織・団体から講師を招くことで、より専門性の高い、説得力のある講義を行うことができます。
研修により、ある程度認知度が深まってきたら、キャンペーンなどを定期的に行い、さらなる活動に取り組んでいきましょう。
・ネットワークの増強
研修・キャンペーンによる社内周知がある程度完了したら、知識をつけた社員が自ら活動するよう「支援」することが必要です。
研修を終えた社員であれば、もう企業側が手取り足取り教える必要はありません。
ただよりLGBTのことについて知ってもらったり、より差別・偏見を無くして頂いたりするための情報提供は必要です。
社内でのキャンペーン活動へのお誘いはもちろん、外部団体・組織の活動情報を発信するのも良いでしょう。
人事部必見!職場のLGBTのまとめ
さて、ここまでご覧いただき、いかがだったでしょうか。
ここに記載している取り組みについては、「おおよそ」の枠組みを提供したにすぎません。実際制度を構築するにあたり、「あれが足りない」「これが足りない」なんていうことはしょっちゅうあると思いますし、思ったように、社内活動が捗らないことも多々あると思います。
しかし今後、人口減により働き手が減り、多種多様な人材・働き方が出てくることは間違いありません。
そこで先述した「7,6%の層」を生かすか殺すかは、人事であるあなたにかかっています。
ぜひ競合よりも早いスタートを切り、人材戦略において、優位な立場に立ってほしいと願います。

「LGBTの歴史」「坊主の男色」「サムライ同士の同性愛」など。
LGBTを勉強していると、非常に面白いストーリーに行き当たることがあります。LGBTは遠い存在のものではなく、日本人である我々だからこそ、もっと身近に存在するものなのだな、思わされます。そんなストレートである私が見つけた“トリビア”的な事例を通じて、読者の方がLGBTに対し、より一層の興味をもって頂くことができれば幸いです。